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2009.11.18 (Wed)

蜜柑の食べ方-姉弟編- 

最近めっきり小説を書かなくなったなぁ、ってふと思いまして。
久々に書いてみたよ。相変わらず何も考えずにばーっと書き出して、ばーっとまとめる。
掌編っていうのは、こう驚くべき発想とか、驚天動地なオチとか、そういうのが求められがちだけど。
俺とかは結構、なんというか、こう、割と平和な感じだったり。
何か小さな出来事があって、そして登場人物が1つ成長するような、そんな話ばっかり書いてきた気がするんだよね。
ってよく考えたらそんな話しか書いてない。
だいぶ前に発表した鉄棒の話だってそうだし、その前の蛍の話だってそう。
何かがあって、そして少しだけ前に進む。そういう掌編があってもいいんじゃないでしょうか。




まぁ今回書いた話はそんなにいいものじゃないけどな


slayerのworld painted bloodを聴きながら書いた話だし。
ってそれはあんまり関係ないか。


【More・・・】



  蜜柑の食べ方-姉弟編-

 僕は蜜柑の白い部分は全て剥く。そして綺麗になった状態のそれを一気に口に放り込むのだ。それこそが至高。この食べ方こそが最強。そう信じて疑わない僕なのだが姉はそんな食べ方をことあるごとに非難してきた。栄養があるから食えだとか、剥くのが面倒だとか、そんなこと知ったことではない。そもそもおまえは蜜柑を食うのに栄養を気にしたことがあるのかと。それに僕は剥く作業を面倒だと感じたことはない。むしろ楽しい。一種の享楽だと思っている程だ。そう言ってやると姉は少し不満そうな表情をするが、すぐに拗ねたように顔を背けてしまう。――僕の勝ちだ、などといつもほくそ笑んでいたものだ。自分よりも頭が良く運動もできる姉に常に言い負かされてきた自分が、この“蜜柑の食べ方議論”においてはただの一度も言い負けたことがない。
 その日、姉はいつものようにこたつに潜って一日中ゴロゴロとしていた。どこかに出かけろよ、と言っても「さむい」「ねむい」「だるい」としか帰って来ない。まぁいつものことだ。僕はこたつ内のスペースのほとんどを占領している姉の糞邪魔なおみ足様を軽く小突きつつテレビを見ていたのだが、そんな僕の行動についにキレたのか、姉が行動に出た。
「みかんとって」
 キレたわけではなかった。起き上がるなりそう言い放った姉に無言で蜜柑を渡すと細い指で器用に皮を剥いていった。その様子をただなんとなくじーっと見つめていたのだが、そのとき皮を剥く作業がぴたりと止まった。
「どうしたの?」
「トイレ」
 のそりと立ち上がって部屋を出て行く。目の前には剥きかけの蜜柑。トイレくらい黙って行けよ。
 瞬間、ある考えが頭をよぎった。
 本当にやってしまうのか、そんなことやってしまっていいのか、なんて思う前に僕の腕は姉の剥きかけの蜜柑に伸びていた。そこからは早かった。すっと蜜柑を引き寄せるとその皮を全て剥ぎ取ってやった。そしてそのまま白い薄皮へと指を伸ばす。
 ――全部剥いてやる。
 正に鬼畜。悪魔の所業。常日頃から「白いところは栄養があるから食え」と言ってきた姉。その姉の食べようとしている蜜柑。その蜜柑の白い薄皮。姉が剥くのをひたすら拒んできたその薄皮。それを今から全て剥いてやろうと言うのだ。これを鬼畜と呼ばずなんと呼ぶ。幸か不幸か、姉は非常に用を足すのが遅い。どうせ便器に座ってぼーっと白い壁を眺めているのだろう。姉の習性は未だに謎に満ちている。何はともあれこれは好機。姉に穢れなき蜜柑の美味しさを伝えるべきではなかろうか。
 さて、と気合を入れて腕まくり。蜜柑の繊細な果実に爪を突き立てる。傷をつけないようにそっと薄皮だけを剥がしていく作業に没頭。慣れていない者にとっては相当の根気と技術が必要で、もはや苦行と呼べる域に達する場合もある。しかし僕は違う。既に達人の域と言っても過言ではなかろう。そんな達人の手にかかり、姉の蜜柑はだんだんとその身を白日の下へと晒していくのであった。哀れなり。恨むなら僕ではなく姉を恨め、トイレの長い姉をな!
 そうして全工程を終えて、蜜柑は元あった位置に戻された。後は姉が戻ってくるのを待つだけだ。さて一体どんな反応をするのか。まずは驚くだろう。そして怒るに違いない。こんなのにしやがってコノヤロウ、と。だがそこで僕は言ってやるのだ。「意外と美味しいかもよ?」と。姉は試しに手を伸ばし、そして口に運ぶ。目の前にあるものはとりあえず試す。そういう女だ。長年一緒に生活してきた弟だからこそわかる。そう、弟だからわかる。
 彼女は涙ながらこう言うに違いない。
「おいしいです! 薄皮がないほうが美味しいです……っ!」
 思わず笑い声が外に漏れてしまっていたようだ。トイレから戻った姉が不審そうに顔を窺ってくる。
「どうしたの?」
「いや、なんでも」
 僕の顔色なんてどうでもいい。早いところ蜜柑の存在に気付け。念ずる僕だがしかし姉はトイレに入る直前までやっていたことすら忘れたのか、机の上の蜜柑に一瞥することもなくこたつに潜り込んでしまった。非常に良くない。姉の脚が再びこたつの中を侵食し始めた。縦横無尽に動く二本の細長い脚が好き勝手に僕の脚を蹴り飛ばし蹂躙していく。そんな様を黙認している僕ではないし、そもそも机の上の蜜柑に気付いてもらわねば何も始まらない。
「蜜柑食わないの?」
 ナチュラル且つシンプルな問いかけ。素晴らしい。
「あー、忘れてた」
 あー、じゃねーよ。
 のっそりと起き上がる姉。のっそりと手を伸ばし、のっそりと口に運ぶ。と、そこで気付いた。目の前の蜜柑に明らかな異変が起きていることに。
「あれ?」と小首を傾げる。そして僕を見つめる姉。こくりと頷く僕。意思疎通完了。予想とは反して驚きもしないし、怒りもしない。ただ目の前で起きた現象をあるがまま受け止めている。器の大きさが成せる技か、ただ単に鈍いだけか。恐らく後者であろう。だが少々不満そうに口を尖らせてはいる。
「白いトコは栄養があるのにな」
 だからそんなこと知ったことではない。
「いただきます」
 不満そうな顔をしつつも口に運ぶ。もぐもぐと咀嚼。そして飲み込む。しばしの間のあと、ぽつりと呟いた。
「……なんか、変」
 変ときたか。随分な変化球だが想定内だ。心のどこかでそう来るだろうことはわかっていた。味覚など人それぞれの感覚なのだから個人の感覚で縛り付けられるものではない。ものではないのだが、自分の好きなものを否定されると人間は少しむきになる。これは仕方のないことだ。
「変じゃない」
「変だよ。だって甘すぎるもん。蜜柑っていうのはね、柑橘系だから酸味がないとダメなの。これは絶対。酸味っていうのは白い薄皮にたくさんあると思うの。だから薄皮を剥がしちゃったら酸味がなくなっちゃう。甘味と酸味のバランスが取れていないとダメだよ。甘さだけじゃ生きていけないよ」
 意味がわからない上に長い。
「そんなこと言ったって、僕はずっとこうやって食べてきたわけだから。今更そんなこと言われてもどうしようもない」
 そんな僕の言葉を聞いた姉は再びのっそりと立ち上がると僕の後ろにあるダンボール箱から一つの蜜柑を取り出して、その皮を剥き始めた。
「それじゃぁこうしようよ」
 蜜柑の皮を剥きながら言う。
「まず、食べてみて」
 びっしりと白い筋の入った果実を渡される。こんなもの食えるわけがない。こんな、こんな汚れがびっしりと張り付いたもの食えるわけがない。しかし反論に信憑性を持たせるためには一度口にしておく必要があるだろうし、思えば姉がこのような行動に移ったのは初めてのことだったので少し驚いていたりもする。だから食べておいた。姉が新境地に足を踏み入れたのに男の僕だけが逃げるなどと、誰かが許しても自分自身が許さない。腹を決めて口に運ぶ。咀嚼する。飲み込む。
「……あ、うまい」情けないことに思わず声に出てしまった。実際、凄く美味しかった。蜜柑ってこんなに美味しかったっけ、と自らの記憶を反芻するほどだった。
 そしてそんな僕を見て、姉が満足そうに笑う。
「でしょ?」

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EDIT  |  22:32 |  Ry♂  | TB(0)  | CM(2) | Top↑

文章上手いね。
むしょうに蜜柑が食べたくなった。
今年も手が黄色くなるまで食べてやるよ。
雫 |  2009年11月20日(金) 18:09 | URL 【コメント編集】

>雫
結構長いこと書いてるからね
蜜柑食いながら書いたよ
Ry♂ |  2009年11月20日(金) 21:07 | URL 【コメント編集】

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